はじめに
「建築設備士なんて意味ない」と聞いたことはありませんか?
決して簡単に取得できるわけではない国家資格なのになぜそういわれるのか、本当に取る価値があるのだろうか…そう感じている方は少なくありません。
しかし、この資格が「意味ない」と言われる背景には誤解や偏見があることも事実です。
本記事では、建築設備士の実際の役割や価値を解説しつつ、「それでも資格を取るべき理由」を具体的にお伝えします。
建築設備士が「意味ない」と言われる理由
建築設備士が「意味ない」と言われる理由は
- 業務独占資格ではない
これが一番大きいと考えられます。
建築士法では、建築設備士について下記の通り定められています。
建築士法(抄)(昭和二十五年法律第二百二号) 第十八条(略)
4 建築士は、延べ面積が二千平方メートルを超える建築物の建築設備に係る設計又は工事監理を行う場合においては、建築設備士の意見を聴くよう努めなければならない。ただし、設備設計一級建築士が設計を行う場合には、設計に関しては、この限りでない。
建築設備士の関与は、努めなければならないのであって、必須ではないのです。
なお、設備設計一級建築士は下記の通り建築士法で定められています。
建築士法(抄)(昭和25年法律第202号) 第二十条の三(略)
設備設計一級建築士は、階数が三以上で床面積の合計が五千平方メートルを超える建築物の設備設計を行つた場合においては、第二十条第一項の規定によるほか、その設備設計図書に設備設計一級建築士である旨の表示をしなければならない。設備設計図書の一部を変更した場合も同様とする。
設備設計図書、つまり図面に設備設計一級建築士である旨を表示しなければならないので、
図面枠などに実名と登録番号を記載する必要があります
建物規模ごとに、建築士法で定められている資格の種類をまとめると下記の通りとなります。
建物規模 | 1,2階 | 3階以上 |
---|---|---|
~2000㎡ | - | - |
2000~5000㎡ | 建築設備士 | 建築設備士 |
5000㎡~ | 建築設備士 | 設備設計一級建築士 |
設備設計一級建築士までの関与は必要ないが、建築設備士の意見聴取に努めなければならない規模もあります。
しかし下記2点から、実務上で建築設備士の意見を聴取という場面は少ないのが現実です。
- 非住宅を設計する設計事務所では、設備設計一級建築士が在籍していることが多いため、
建築設備士として設備設計を行う場面が少ない - 意見聴取をしても得られるメリットが薄く、実務上で建築設備士が求められる場面は限られている
建築設備士が「意味ない」と言われる理由として、他には下記が考えられます。
- 知名度が低い
建築士と比較して、業界外での認知度が低く、存在意義が伝わりにくい。 - 取得の難易度に対してリターンが見えにくい
資格取得には時間と努力が必要です。
しかし、それが直接給与アップやキャリアに結びつかないと思われているケースがあります。
それでは、本当に建築設備士の資格を取るのは意味がないのでしょうか。次の見出しで建築設備士の価値を具体的に解説していきます。
建築設備士が実際に役立つ場面
建築設備士は、建物に関わる設備の設計や管理を専門とする資格です。この役割が求められる場面は非常に多岐にわたります。
- 建築現場での専門知識の提供
建築設備士は、空調や給排水、電気設備など、建物に欠かせない部分を設計します。
例えば、大型の商業施設では、エネルギー効率の高い設備計画が求められるため、専門的な知識が大きく役立ちます。 - 安全性を確保する役割
建築設備士は、法令に基づいた設備設計を行い、建物の安全性を守ります。
地震や火災時に避難経路が確保されているか、適切な設備が設置されているかなどを確認するのも重要な仕事です。 - 環境に配慮した設計
省エネや環境負荷の少ない建物が求められる今、建築設備士の知識はさらに注目されています。
例えば、再生可能エネルギーを活用したシステムの提案もその一例です。 - 国家資格の保持者となる
業界外で建築設備士の存在を知らない人は多いですが、国家資格の保持者であることは施主や取引先からの信頼に繋がるため、仕事の依頼を受ける際にも有利になります。
たとえ一級建築(設備設計一級建築士)でなくても、建築設備の専門であることを証明できる資格です。
建築設備士が活躍できる現場を知ることで、その価値がより明確になるでしょう。
建築設備士を取るべき理由
建築設備士は「意味ない」と感じる人もいますが、以下の理由から取得する価値があります。
設備設計一級建築士の修了考査で有利になる
設備設計一級建築士は通常、「法適合確認」と「実技試験」の考査を受ける必要がありますが、建築設備士の保持者は、「実技試験」が免除されます。
建築設備士の二次試験には設計製図問題が含まれています。
建築設備士の資格を取得することは、設計製図の実技において設備設計一級建築士として必要な能力を有していることの証明にもなるんですね。
また、建築設備士を取得後に一級建築士を取得した場合について
設備設計一級建築士は通常、一級建築士として5年の設備設計の実務経験が必要です。
しかし、建築設備士取得後なら一級建築士となる前に行った業務も実務経験として認められます。
設備設計一級建築士の試験については下記の記事も参考にしてください。
一級建築士試験の受験資格が得られる
一級建築士、二級建築士及び木造建築士に実務経験なしで受験資格が付与されます。
※二級建築士から一級を目指す場合は、建築に関する学歴がないと7年以上の実務経験が必要です。
設備設計一級建築士を目指す人の中には、機械、電気系の学科を卒業した人もいるので、そういった方は建築設備士から取得するのがよいでしょう。
以下、建築学科、機械学科の大学を卒業した場合、設備設計一級建築士の受験資格が得られるまでの年数です。
建築学科卒業 ※3 | 機械・電気学科卒業 | |||
実務経験 | 一級建築士 | 建築設備士 | 一級建築士 | 建築設備士 |
0年 | 実務経験 | 実務経験 | 実務経験 | |
1年 | ||||
2年 | 〇登録 ※1 | 〇登録 ※2 | 〇登録 | |
3年 | 実務経験 | 〇(建築設備士取得後) | 実務経験 | |
4年 | ||||
5年 | ||||
6年 | ||||
7年 | ||||
7年以上 | 設備設計一級建築士受験資格 (建築設備士は法適合確認免除) | 設備設計一級建築士受験資格 (法適合確認免除) |
※1:一級建築士の受験自体は実務経験0年から可能です。登録できるのが実務経験2年以上となります。
※2:設備設計一級建築士となるために必須ではありません。
設備設計一級建築士受験時に、法適合確認が免除されるかどうかが変わります。
※3:機械・電気学科卒業と同じく、建築設備士から受験することも可能です。
建築設備士と一級建築士なら、一級建築士のほうが難易度が高いため、先に一級建築士を取得する流れで記載しています。
その他資格取得、講習での優遇
- 登録建築設備検査員講習、登録防火設備検査員講習及び登録昇降機等検査員講習の受講科目の一部が免除
- 建築物省エネ法に基づく登録適合性判定員講習の受講資格が付与
- 防火対象物点検資格者講習が、5年以上の実務経験で受講資格付与
詳しくは、建築技術教育普及センターのホームページをご確認ください。
建築設備士の活用等の状況 :建築技術教育普及センター
在籍する会社にとって有利となる
- 建設業法において、経営事項審査の技術力評価で加点される
(公共工事を受注する際に有利になる) - 公共建築協会の公共建築設計者情報システムにおいて、建築設備士の人数を入力できる
- 国土交通省測量・建設コンサルタント等業務競争参加資格審査において、一級建築士と同様の点数が付与される
- 会社に在籍する技術者の数を示すことで、会社全体の技術力を示すことができる
詳しくは、建築技術教育普及センターのホームページをご確認ください。
建築設備士の活用等の状況 :建築技術教育普及センター
年収アップにつながる
資格を持つことで、役職に就くチャンスが広がる、資格手当がつくなど、収入が増える可能性があります。
また、転職する際にも、建築設備士を優先採用など条件で有利になるため、優先的に採用される可能性が高まります。
その結果として、年収アップが期待できます。
まとめ
建築設備士は「意味ない」と言われることもありますが、実際にはその知識とスキルが多くの場面で役立ちます。
資格取得後の活用法次第でキャリアアップや年収増加、さらには業務の信頼性向上につながります。
資格を取得する価値をぜひ見直してみてください。